漆器の塗り
ここでようやく本格的に漆を塗る作業にはいります。
漆器は塗り物と言われるくらい塗りこそ漆器制作の命と言われています。
会津塗や輪島塗など塗りという言葉でその漆芸を表しています。
|漆工のメイン作業である塗りの工程
塗りは「会津塗」や「輪島塗」などというように漆器そのものを表しています。
漆器作りのメイン作業になります。
漆を塗る職人は塗師(ぬし)といわれます。
塗りの技法は産地によってそれぞれの特色と芸術性にあふれる技術が
伝わり守られています。
木地の木目をそのまま生かす塗り方や厚い黒色や朱色に塗り上げる技法、
漆で文様を表現する技法まで様々です。
|塗りのプロセス
塗りの段階は3つに分かれます。
|下塗り
下地作りの工程を終えた木工品を黒漆をぬり、磨き炭で研磨します。
|中塗り
さらにもう一度下塗りしたものに黒漆をぬって磨きます。
|上塗り
黒漆、透漆(すきうるし)、朱漆などの好みの漆を塗って仕上げます。
装飾を加えない無地の漆器はここで作業を終えます。
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|仕上げ
上塗りをした後に更に磨くか磨かないかで塗りは大別できます。
|呂色仕上げ(ろいろしあげ)
呂色塗(蠟色塗)ともいいます。
油分を加えない漆を上塗りした後に炭で水をつけて丁寧に磨いて乾かして
更にまた塗って磨く作業を繰り返します。
表面は鏡のような光沢になります。
|花塗(はなぬり)
塗立てともいわれます。
上塗りに油分を加えた漆を使い磨きを行いません。
塗った漆の本来持つ柔らかな風合いを楽しむ手法です。
会津塗りは花塗りが主体です。
花塗りの一種で油を加えない黒漆で上塗りする技法は真塗りといわれます。
|多彩な塗りの技法
|摺漆(すりうるし)・拭き漆(ふきうるし)
生漆を布や綿・剛毛で木地に漆を塗りこんで
木地の木目や木肌の風合いを最大に引き出す手法です。
乾いたらふき取って磨く作業をひたすら繰り返します。
和紙で漆をふき取って作業を繰り返すので
「拭き漆」とも言われます。
木目がはっきりした艶のある堅牢な漆器ができあがります。
(上部写真参照)
|木地呂塗(きじろぬり)
生漆を塗り重ねて仕上げに上塗に油分を加えない透漆を塗って
最後に研磨して仕上げます。
木目が透けて見えるため素朴感が漂う作品になります。
ケヤキなどの木目のはっきりした木地には最適です。
鳴子漆器がその代表的な産地です。
|春慶塗(しゅんけいぬり)
油分を加えた透漆をヒバやヒノキなどの木目の美しい木地に塗って仕上げます。
木目がはっきりした作品になります。
飛騨や秋田能代、栗野などに伝わる技法です。
|掻き合わせ塗(かきあわせぬり)・目はじき塗り
あえて下地はしないで柿渋を塗って不透明な色漆を上塗りすると
木目や導管が漆をはじき木のへこみなどの文様が
凸凹になって浮かび上がってきます。
「目はじき塗」とも言われています。
伝統的には黒漆や朱漆が多いのですが、そのほかの色漆も可能です。
桐やケヤキなどの木目のはっきりした木地に使います。
表面には木の材料の肌の凸凹が出てきます。
京漆器が代表的な産地になります。
|溜塗(ためぬり)
上塗りに薄褐色の透漆(溜漆)を使う手法です。
透きとおった漆を塗るので下の層の色が見えます。
下地に予め朱色をぬった「朱溜」や黄色をぬった「黄溜」、
木地に下地をつけないで
摺り漆を数回行って木目を生かした「木地溜漆」などがあります。
朱溜は素敵なワインレッドの色調が浮き出てきます。
|一閑塗(いっかんぬり)
木地の表面に和紙を貼り付けてその上に摺り漆を行います。
木と和紙の柔らかな感触が協調しあって柔らかみある製品になります。
茶器のナツメやお菓子入れなどに使われる手法で、竹細工の籃胎にも使われます。
|布目塗り(ぬのめぬり)
木地に布を貼ってその上に漆を塗り重ねてゆきます。
布の肌合いを楽しむ手法です。
|根来塗(ねごろぬり)
和歌山県の当時大寺院であった根来寺で
13世紀に僧侶たちが使う日常食器の制作で編み出された漆芸です。
その為に堅牢さを重視して、下塗に黒漆を何度も重ねて最後に朱漆で仕上げをしました。
やがて使いこんでいくと朱の下から黒の色合いが何とも言えない趣で浮かび上がってきます。
現代では敢えて最初から研ぎをいれてこの色調を出してゆきます。
|曙塗り
曙塗は根来塗りとは全く逆で、朱塗りの上に黒を塗り重ね、
その一部を磨いて下の朱を出す技法です。
全体的には黒く見えますが朱色が見え隠れしていい色調になります。.
|鎌倉彫
鎌倉時代に鎌倉で考案されました。
木素地に彫りをいれて模様を描き、直接黒漆を塗り、
その上に朱、青、黄など色漆を塗り重ねて磨き仕上げます。
|堆朱(ついしゅ)・堆黒
塗りかさせねた漆の厚い層に文様を刻み込んでいく技法です。
中国漆器の代表的な技法です。朱漆を塗り重ねて彫刻するものを「堆朱」
黒漆を塗り重ねるものを「堆黒」といいます。
|繊細な漆の塗り作業
漆を塗る作業は極めて神経を使う作業です。
漆は塗ってから乾く段階で乾燥を嫌います。
適度な湿度が必要です。
またチリやホコリも嫌います。
そのために塗師は1人で静かに淡々と行います。
「漆は湿気の多いムロ(室)で乾燥させる」というのはこれを物語っています。
漆の樹脂は固化する過程で漆自身の酵素が働きます。
この酵素は空気中の水分の酸素によって活性化されます。
そのために適正な湿度が必要なのです。
これは雨の多い日本の風土に適合しています。
特に東北や日本海側に漆器の産地が多いのは
樹木の条件と合いまったためと考えられます。
静かで地道な作業は日本人の気質にも合いました。