漆(うるし)について
秋に山で真っ赤に紅葉する木が一般的には漆(うるし)の木と言われていますが、
塗料としての漆を採る気は木は少し違っています。
山で真っ赤になる木は山うるしと言われる種類です。
|うるし(漆)の木
漆(うるし)はウルシ科の漆の樹から採取される天然樹脂塗料です。
漆の木は植物分類上では600種ほどあると言われます。
マンゴーの木やカシューナッツの木もウルシ科ですが、
その中でも塗料としての漆が採取できる木は数種類です。
日本のうるしは分類学的にはウルシ科ウルシ属ウルシ種に属し
中国、台湾、韓国、日本に分布する落葉小高木です。
|漆の成分
東南アジアで採取される漆の原木は国によって大きく違って主成分も違っています。
日本、韓国、中国では上記の漆の木から採取し成分はウルシオールです。
ベトナム、台湾ではウルシ科のハゼノキの仲間(アンナンウルシやインドウルシ)
から採取して主成分はラッコールです。
ミャンマー、タイ、ラオスなどではビルマウルシからなどから採取して
主成分はチチオールなどです。
厳密にはウルシとはいえないのかも知れません。
日本、韓国、中国のウルシは東南アイジアの漆とは性質も大きく違います。
その中でも日本の漆は精製におけるも工程も丁寧で、
ウルシオールの成分が多いため高品質とされています。
しかし、近年生産量も大幅に減って高価な塗料になっています。
|日本の漆の木
日本の漆の木は自然では北海道の南部から沖縄まで生育します。
ウルシを採取する漆の木は山の斜面の日当たりのいい日射量の多い高台や斜面に
人工的に植えられています。
木の高さ10m、太さは50cmくらいに成長します。
秋になると紅葉するのですが、黄色が強くあまりうつくしくありません。
日本では漆の木の仲間はその他、ヤマウルシ・ハゼノキ・ヌレデ・ツタウルシなどが
があります。
木の子取りや山菜取りで思わず触ってかぶれてしまうのはこれらの漆の仲間で
低木です。秋に山で鮮やかに紅葉するのはヤマウルシなどです。
うるしカブレはウルシオールが原因で起こる皮膚炎で強い痒みが伴いますが、
漆をぬって乾燥させたものは漆カブレを起こすことはありません。
これまで日本で漆を採る漆の木は大陸より伝来したと考えられていましたが、
DNAの測定から大陸とは違う日本の固有種であると判明しています。
|漆掻き(うるしかき)
塗料としてのウルシはウルシの木の樹皮を傷つけて
そこからにじみ出てくる乳白色の樹液を精製して作ります。
漆の木の肌を金属製の道具(カンナといわれる)で傷をつけて樹液をにじませた
箇所から引っかくようにとることから「うるし掻き」といわれています。
日本での漆の採取は10年くらいの成木で行われます。
木が一番元気な6月から10月にかけて採取しますが、
採取した後は伐採されます。
1本の木からわずか200g程度しかとれず高価です。
かっては日本全国で漆の木を栽培して漆を採取していましたが、
現在では90%以上が中国産を輸入して利用されています。
|漆の特性
天然の樹脂としての漆はさまざまの利点を有しています。
日本のウルシは60~65%がウルシオールですが、
このウルシオールは適度な温度と湿度のもとでウルシに含まれる酵素によって
酸化されて乾いた状態、固化します。
この固体へと変化するウルシオールは接着性、断熱性、耐熱性、絶縁性、防腐性、抗菌性
そして酸・アルカリ・塩分・アルコールへの耐用性に優れた塗料となります。
乾くことで堅ろうな漆の塗膜を形成するのです。
ウルシはまた極めて薄く塗ることも可能で工作性にも優れて
その光沢の美しさは際立っています。
つまり加工しやすく美しくて丈夫であるのが漆という天然樹脂の特性と言えます。
漆の樹液は殺菌性にも優れていますが、
その強力な接着剤としても他の生物たちも大いに利用しているようです。
自然界の蜂はこの樹液で巣を木の枝にしっかり固定するといいます。
そのためどんな強い風にも巣が飛ばされることはないそうです。
|漆塗料の種類
塗料としての漆は精製の過程や加工によって下記のように分類されています。
|生漆(キウルシ)
漆の木から採取したものから木屑などのごみを越し取ったものを生漆といいます。
主に下地作りに利用されます。
|透漆(スキウルシ)
生漆を精製したもので薄茶の透明なウルシ塗料です。
漆器作りの工程で上塗り、中塗り、下塗りの工程で利用されます。
|黒漆(クロウルシ)
クロウルシは生漆を精製漆にする過程で鉄分を加えます。
鉄の酸化作用で黒色に変わります。
透漆と黒漆は用途に応じて油分を加えて上塗りなどを行います。
|漆の色
我々の漆にイメージは赤と黒が強いかと思いますが、
もともとの漆の樹液は加工前は透明な琥珀色です。
漆器の黒色は漆黒(しっこく)と呼ばれるほど真の黒色ですが、
生漆に水酸化鉄を入れて化学反応させたものです。
朱色は精製した漆を寝せて透明度を出したところに顔料をいれて作ります。
黒色以外は透漆に顔料を入れて漆を溶剤として発色させます。
発色する顔料は限られ、黒、白、朱、黄、褐色、緑が基本の色になります。
着色した漆液は色漆(いろうるし)とよばれます。